去年、2025年に創業150周年を迎えたオーデマ・ピゲは、この記念すべき年を記念して、東京・銀座にて没入型特別展「ハウス・オブ・ワンダーズ展」を開催している。初日から大きく話題となった同展示会に時計ライターの1人として筆者も銀座に馳せ参じた。本稿では同展示会の展示内容や見どころを紹介していく。最後までご一読いただければ幸いである。
エントランス

会場のエントランスにて、まず目にしたのはスイス・ル・ブラッシュにあるオーデマ・ピゲの工房を模したゲート。1875年に建てられ、現在でも本社として使用されているこの建物は同ブランドにとって由緒あるものだ。本展示会ではこのゲートからスタートし、そこから3つの部屋を巡ることになる。なお、ゲートは“魔法の合い言葉”を言わないと開かないとのこと。本展示会は“没入型”。ブレゲの時のような、受付を済ませ、あとはご自由に…という形を予想していただけにあって、少々面食らってしまった瞬間であった。
時のギャラリー
まず最初の部屋はオーデマ・ピゲの歴史的な資料や創業者一族の系譜などを拝見できる神秘的な書斎「時のギャラリー」。ハウス・オブ・ワンダーズ(=不思議の館)の名に違わぬ、そのファンタジックな空間に筆者は一瞬で引き込まれた。

「時のギャラリー」内部はブラックとグリーンを基調としたダークな空間。天井と床は鏡張りになっており、書棚が無限に続いているかのような構造となっている。まさに、魔法の書斎だ。



写真左上:樹木に見立てたオーデマ・ピゲ創業者の家系図。同ブランドは1875年の創業時から現在に至るまで一族経営を貫いている時計ブランドとして広く知られており、創業者であるエドワール=オーギュスト・ピゲの曾孫オリヴィエ・オーデマ氏が取締役副会長を務めている。以前は共同創業者であるジュール=ルイ・オーデマの曾孫ジャスミン・オーデマ氏も同ブランドの取締役会長を務めていたが、2022年に退任。現在は同ブランドが設立した企業財団であるオーデマ・ピゲ財団の会長を務めている。
写真右上:1881年に締結されたパートナーシップ契約書。すべてはこの1枚の紙から始まった。ジュール=ルイ・オーデマは製作、エドワール=オーギュスト・ピゲは経営を担当する形で「オーデマ・ピゲ」が誕生したのである。
写真左下:1890年頃に同ブランドの工房に掲げられていたエナメル製の看板。「MANUFACTURE D’HORLOGERIE COMPLIQUÉE ET EN TOUS GENRES AUDEMARS PIGUET COMPTOIRS DE VENTE GENÈVE PARIS LONDRES NEW YORK」(オーデマ・ピゲ 複雑時計および、あらゆる時計の製造工房。販売拠点 ジュネーブ、パリ、ロンドン、ニューヨーク)と書かれている。
機械のひみつ
時のギャラリーを抜けると、次の部屋は「機械のひみつ」。2019年に誕生したオーデマ・ピゲの新しいシグネチャーである「CODE11.59」のクロノグラフモデルとそれに搭載されているムーブメント「Cal.4401」を例に、機械式時計の仕組みおよび、製造過程を知ることができる。時計ファンはもちろん、そうでない人も楽しめる空間であり、この部屋から時計ファンになる人も多いのでないだろうか。



写真左上、写真右上:「CODE11.59」のケース作成および、文字盤作成の過程。一見シンプルな時計であっても長い時間と工程をかけ、細部にまで仕上げが施されていることがわかる。特に同モデルは随所の作り込みや仕上げのクオリティの高さで高い評価を得ている。
写真左下:「Cal.4401」の分解構造。機械式時計はその精緻さ故、たびたび「小宇宙」に例えられる。再度述べるが、同キャリバーはクロノグラフムーブメント。クロノグラフ搭載でこれだけ細かいのであれば、トゥールビヨンやミニッツ・リピーター、パーペチュアル・カレンダー、もしくはそれらを複数搭載したものであれば、一体どうなっているのだろうか…。もはや、想像するだけで気が遠くなってしまう。現にオーデマ・ピゲにはそういったモデルが存在する。同ブランドの時計師、技術者たちには敬意を表するばかりだ。
アイデアの旅
「機械のひみつ」から2階へ上がり、次は「アイデアの旅」。「時計はたった一つのアイデアから生まれる」をコンセプトとしたVRコンテンツであり、オーデマ・ピゲとVR製作会社ドリームスケープ社が共同製作したものだ。筆者にとって人生初のVRゴーグルを使った体験であったため、恥ずかしながら、コンテンツを始めるのにかなり手間取ってしまった。
デザインの金庫室
最後の部屋は本展示会の目玉として、最も話題になった「デザインの金庫室」。大金庫を模した部屋には、スイスから取り寄せた極めて貴重なアーカイブピースの他、同ブランドのアイコンであるロイヤルオークをはじめ、店頭でもまず、見ることはできないであろうレアピースが一挙に展示されていた。





同ブランドが150年にわたって作り上げてきたタイムピースは何物にも代えがたい至宝である。大金庫はそれらを保管するのに非常に相応しい場所だ。写真の左下のショーケース下にある貸金庫は開けることができ、中には写真右下のようにブランドエピソードが収められている。この仕掛けも大変ユーモアに溢れている。
大金庫に展示されていたレアピースたち

1925年製 パーペチュアルカレンダー搭載懐中時計

エドワール ピゲ グランドデイト トゥールビヨン

ウルトラシン パーペチュアルカレンダー

パーペチュアルカレンダー イクエーション オブ タイム

ロイヤルオーク パーペチュアルカレンダー 120周年アニバーサリーモデル

CODE11.59 バイ オーデマ・ピゲ パーペチュアルカレンダー

ロイヤルオーク (RD#2)
2018年に発表されたコンセプトモデルであったが翌年、2019年に「ロイヤルオーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシン」として製品化。同年の「GPHG」にてグランプリである「金の針賞」を受賞している。

ロイヤルオーク ダブルバランス ホイール オープンワーク
ステンレスモデルも希少であるが、そのブルーセラミックモデルとなるともはや、幻と言ってもいいかもしれない・・・。

CODE11.59 バイ オーデマ・ピゲ スターホイール

ロイヤルオーク コンセプト フライングトゥールビヨン GMT


展示されていたタイムピースの中には、顧客やコレクターの方々から貸し出されたモデルがいくつか展示されていた。上2つの「CODE11.59 」(左:ウルトラコンプリケーション ユニヴェルセル RD#4 右:グランソヌリ カリヨン スーパーソヌリ)は日本の著名なコレクターが所有している非常に特別なモデル。

1986年に発表された、世界初となるトゥールビヨン搭載腕時計「ウルトラシン オートマティック トゥールビヨン Ref.25643」。こちらも著名なコレクターの方から貸し出されたものだ。ロイヤルオークの栄光で見落とされがちだが、オーデマ・ピゲはこの他にもミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダーといった複雑機構を世界で初めて腕時計に搭載したコンプリケーション・ウォッチのパイオニアでもあるのだ。
不満点を挙げるのであれば・・・
今回の特別展「ハウス・オブ・ワンダーズ展」は大変素晴らしいものだった。スタッフの方々も丁寧で、とても親切であり、筆者は大変満足した。しかし、大変恐縮ではあるが、1つだけ不満点を挙げさせていただく。
それは、見学時間が45分と短すぎることだ。オーデマ・ピゲ150周年を祝う本展示会。正直言って、45分で全てを見るのははっきり言って難しい。そう感じるほど、ボリュームある濃い内容であった。現に筆者は気が付くと、見学時間を大幅に超えて展示に見入ってしまっていたのだ。そのことをスタッフの方にお詫びしたところ、筆者が見学していた時間帯は他の見学者が少なかったため、見学時間の延長を快く許可してくださった。おかげで筆者は十二分に満足するほど展示会を堪能することができた。

参加賞として帰りにいただいたステッカー
オーデマ・ピゲ…。筆者の記憶では、ほんの10年ほど前は、時計愛好家の間でしか関心を持たれなかったイメージであるが、現在は老若男女、世界を問わず、圧倒的な支持を得ている。その勢いは高級時計の代名詞的ブランドであるロレックスと肩を並べるほどと言っても過言ではないだろう。
こうした成功は、同ブランドのたゆまぬ努力によるものである。創業150周年という大きな節目を迎えたオーデマ・ピゲには、今後とも我々時計愛好家を魅了し続けてくれることを期待したい。
150周年、おめでとう!AP!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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テンプスアーカイブ運営者 兼 ライター 稲葉 淳 X(旧ツイッター)アカウント
