ジャガー・ルクルトは今年8月26日に銀座並木通りに新しくフラグシップ・ブティックをオープン。これを記念し、10月1日から6日にかけて、六本木ヒルズカフェにて没入型体験イベント「Valley of Inventions―発明の渓谷」を開催した。筆者はこれに参加するため、東京・六本木ヒルズに赴いた。前回のオーデマ・ピゲの「ハウス・オブ・ワンダース」展に続き、今年2度目の展示会参加である。
オーデマ・ピゲ150周年エキシビション ハウス・オブ・ワンダーズ展 参加レポートはこちら。
希少な展示品の数々。しかし、それだけではなかった!
過去に筆者はブレゲ「Les Tiroirs du Temps ~時の引き出し~」展、オーデマ・ピゲ「ハウス・オブ・ワンダース」展に足を運んだ。レアピースや希少な展示物を拝見でき、非常に素晴らしい体験をした。
しかし、今回の展示会は一味違い、なんと、スイス・ジュウ渓谷から来日した「メティエ・ラール™」(ジャガー・ルクルトが擁する装飾芸術工房)の職人の実演と時計師のワークショップも行われていたのだ。普段ではまず、見ることができないウォッチメイキングの一端を間近で拝見することができたのである。
さらには、開催日2日目となる10月2日には同ブランドの開発責任者 浜口尚大 氏と時計専門誌「クロノス日本版」編集長 広田雅将 氏によるトーク・セッションも行われた。しかし、どうしてもスケジュールが合わず、筆者はお二人の貴重なトーク・セッションを見ることは叶わなかった。無念。

↑会場のエントランスで受付を済ませると、来場者特典としてトートバッグをいただいた。「Valley of Inventions―発明の渓谷」と「ジャガー・ルクルト」の名が入っている。嬉しい!




↑ジャガー・ルクルトのルーツであるジュウ渓谷の冬は大雪と氷点下により、厳しい自然環境さらされる。写真は同地の住民が冬期間の移動に使ったというスキー板である。





↑ジャガー・ルクルト創業者アントワーヌ・ルクルトは時計の精度にこだわり続け、優れたムーブメントを作るべく、精密加工を可能とした様々な工具を発明した。
左の写真は彼の発明の中でも、とりわけ有名な「ミリオノメーター」。0.001mm単位の測定を可能にした世界初の装置だ。右の写真が「ラウンドアップツール」。1850年に発明され、歯車の歯を完璧に同形状同サイズに切削することを可能にした。その他にも、ピニオン(小歯車)切削工具、プレート切削工具を発明。いつしか同社は時計業界の「機械屋」「技術屋」と称されるようになった。
また、これらの発明により、高い品質と精度を兼ね備えたムーブメントの製作が可能となり、現在に至るまで、同社は1400種類以上のムーブメントを製造。後年には、パテック・フィリップやオーデマ・ピゲをはじめとする多くのブランドにムーブメントを供給するようにもなる。

↑上述の発明の数々は時計製造に革新をもたらし、1851年に開催された第1回ロンドン万国博覧会にて金賞を受賞した。また、その後の1900年のパリ万国博覧会でも賞を受賞。


↑本展示会の最大のハイライトであったメティエ・ラール™のエナメル職人の実演と時計師のワークショップは常に参加者で溢れていた。
左の写真はメティエ・ラール™のエナメル職人の実演。描いているのは今年の新作「レベルソ・トリビュート 葛飾北斎 諸国瀧巡り」の「東都葵ケ岡の滝」だ。水の流れを独創的かつ緻密に描き出したことで知られる「諸国瀧廻り」。本展示会で実演を担当していた職人は、わずか縦45.6mm×横27.4mmのケースに忠実に同作品を描き出していた。その様子に筆者を含む参加者一同は思わず息を飲んでしまった。同工房とその職人達の技術を単に「メティエ・ラール™(=匠の技)」という言葉で収めるには、いささか惜しい気がする…。
右の写真は同社の時計師のワークショップにて。左が同社第5作目となった多軸トゥールビヨン・モデル「マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン・ウェストミンスター・パーペチュアル」のムーブメント「Cal.184」。右が同社初のトゥールビヨン・モデル「マスター・ジャイロトゥールビヨン 1」に搭載された「Cal.177」。
初代多軸トゥールビヨンである「Cal.177」は約70%の腕時計の姿勢差をカバーできるのに対し、「Cal.184」は約98%カバーできるというのだ。担当していた時計師曰く、「Cal.177の時点で腕時計用のトゥールビヨンとして完璧であった」とのこと。
そこから、さらに上を目指す姿勢に、同社の飽くなき挑戦心が窺える。ワークショップ中、時計師の方からキズミを貸していただき、ムーブメントを拝見。構成している部品1つ1つが丁寧に磨かれ、動いている多軸トゥールビヨンはある種の”宝石”のようにも感じられた。
なお、写真を見てわかるように、グランド・コンプリケーション・ムーブメントが2つ剝き出しで、しかも簡単に手に取れてしまうように展示されていた。一応、デモンストレーション用のムーブメントとのことであり、実際に製品で使われないとのことだが、担当の時計師は「(剝き出しで展示されているものだから)埃が付いてしまい、いつ止まってしまうか…」と漏らしていた。
筆者も写真を撮る際、思わずヒヤヒヤしてしまった。「うっかりスマホを落とし、壊しでもしたら」と…。
もしそんなことにでもなれば、筆者は一生、同社を出禁になるだろう。(出禁で済めばまだマシなのかもしれないが…。)
展示されていたタイムピースは2026年の新作
前述の実演とワークショップが今回のハイライトで間違いないだろう。しかし、時計の展示会と言えば、やはり、コレ!
本展示会では2026年の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026」で発表された新作のタイムピースをメインに展示されていた。さながら、”プチ”ウォッチズ&ワンダーズであった。



↑「マスターコントロール」コレクションの新作「マスター・コントロール・クロノメーター」。上から「マスター・コントロール・クロノメーター・デイト」「マスター・コントロール・クロノメーター・デイト・パワーリザーブ」「マスター・コントロール・クロノメーター・パーペチュアルカレンダー」。新しく制定した自社規格「HPG」(High・Precision・Guaranteed=高精度保証)を初めて導入したモデルだ。



↑世界各地の美しい自然を彫金、ジェム・セッティング、グラン・フー・シャンルヴェ・エナメルといった伝統的な装飾技法で再現した「レベルソ・ワン カプセルコレクション ラ・ヴァレ・デ・メルヴェイユ―神秘の谷™」。左から「レベルソ・ワン サクラ」「レベルソ・ワン・ハイビスカス・シリアクス」「レベルソ・ワン・ハイビスカス・ローザ」。「メティエ・ラール™」の職人達が製作したもので、いずれも世界限定20本である。


↑江戸時代後期の浮世絵師 葛飾北斎の作品「諸国瀧廻り」をグラン・フー・エナメルで再現した「レベルソ・トリビュート・エナメル 葛飾北斎 諸国瀧巡り」。左上の写真から右下の写真にかけて、「レベルソ・トリビュート・エナメル 葛飾北斎 諸国瀧巡り 相州大山ろうべんの滝」「東都葵ケ岡の滝」「東海道坂ノ下清滝くわんおん」「美濃ノ国養老の滝」である。「レベルソ・ワン カプセルコレクション ラ・ヴァレ・デ・メルヴェイユ―神秘の谷™」同様、メティエ・ラール™の職人達によって描かれた。こちらも生産本数が限られており、いずれも世界限定10本となっている。

↑マスター・ハイブリス・メカニカ・ウルトラスリム・ミニッツリピーター・トゥールビヨン
搭載ムーブメントは2014年に発表された同社の世界最薄の自動巻きミニッツリピーター・トゥールビヨン・ムーブメント「Cal.362」。本モデルは同年、同ムーブメントを搭載した「マスター・ウルトラスリム・ミニッツリピーター・フライングトゥールビヨン」の進化形だ。前作は開口部がフライング・トゥールビヨン部分のみであったのに対し、本モデルは文字盤全体をフルスケルトン化している。持ち前の薄さを維持しつつ、可視化されたムーブメントの審美性を高めるため、ミニッツリピーター機構の配置の見直しやムーブメントのブリッジを金属ではなく、サファイアクリスタルを採用するなど、様々な工夫が図られており、結果、ケース厚をわずか8.25mmまで抑えている。生産本数は世界限定10本。

↑マスター・グランド・トラディション・トゥールビヨン・ジャンピングデイト
12時位置にGMT表示、6時位置にトゥールビヨン、文字盤外周に指針式のジャンピングデイトを備えており、9時位置の窓からはジャンピングデイトの駆動部を鑑賞できるようになっている。公式の画像ではバーリーコーンのギョーシェ装飾を施したブラック文字盤に見えるが、実際は半透明の鮮やかなブルー・エナメルとなっている。
展示会を彩る珠玉のタイムピース

レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド

レベルソ・クラシック・スモール・デュエット

レベルソ・トリビュート・クロノグラフ

レベルソ・トリビュート・デュオ・トゥールビヨン

レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー179

マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン・ウェストミンスター・パーペチュアル

19世紀後半製 グランド・コンプリケーション・ポケットウォッチ

ジオフィック・クロノメーター



↑たった1℃の気温変化で動く、同社の革新的クロック「アトモス」も会場の隅にひっそりと展示されていた。左の写真から「アトモス・インフィニット」「アトモス・トランスバラット」「アトモス・568 BY マーク・ニューソン」。

↑展示されているタイムピースは写真のように姿を消したり、現したりした。気になり、筆者は近くに居たスタッフに尋ねると、写真のディスプレイのちょうど背後に設けられた席で、商談が行われているとのことだった。繰り返し述べるが、まさに、”プチ”ウォッチズ&ワンダーズであった。
もう一つの楽しみ・・・
新作とレアピースの展示、職人の実演、ワークショップ。本展示会は見どころ満載で十分すぎるものだった。
しかし、これで終わりではない。
ジャガー・ルクルトは「メイド・オブ・メイカーズ™」という食、音楽、デザインといった時計製造以外の分野のアーティストとのコラボレーションプログラムも行っている。その一環として、本展示会ではミシュラン2つ星シェフ ジル・ヴァローヌ氏が創作したチーズ料理を数量限定で提供されるというのだ。参加者の中にはレアピースや実演よりも、こちらを目的に来たという人も少なくなかったのではないだろうか。無論、筆者もそれを楽しみにしていた。
しかし、残念なことに席に座った時には全て完売しており、筆者はミシュラン・シェフの創作料理を味わうことは叶わなかった。非常に残念でならない…。

↑席に着いた以上、何も頼まないのも気が引けるので、シャンパンを注文。シャンパンとチーズで優雅に展示会を締めくくる予定だった。無念。
おまけ
会場に入場する際、前述のトートバッグと共に1枚のカードを渡された。どうやら、そのカードを持って新しくオープンした銀座並木通りのブティックを訪れると、何やら記念品が贈呈されるとのこと。後日、早速、筆者は銀座へ足を運んだ。着いたのは11時頃。ちょうどブティックの開店時間であった。最初のお客が買いもしない、ただ展示会の記念品を貰いに来たという図々しい筆者をどうか、お許しいただきたい。

記念品の内容はジャガー・ルクルト製の芳香剤。意外かもしれないが、同社は自社で養蜂場を所有しており、その延長線上でこのような品も手掛けているとのこと。現在、この芳香剤は筆者の寝室のクローゼットに置いてある。ほのかな香りが心を安らがせてくれる。
過去に訪れた展示会もそうだが、こういった時計の展示会は本当に素晴らしい体験ができる。もし、少しでも時計に興味があれば、一度足を運んでみてはいかがだろうか。
ただし、”沼”にハマったとしても、筆者は一切、責任を負わないので悪しからず。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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テンプスアーカイブ運営者 兼 ライター 稲葉 淳 X(旧ツイッター)アカウント
